静電気と無縁に服を着こなしたい
周りを見ると、静電気によく悩まされる人と、そうでない人がいる。これは体質のせいなのか。静電気学会の会長を務める東京大学の小田哲治教授に聞くと、「汗をかきやすい人は、その水分を通じて電気が逃げるので、静電気はたまりにくいはず」と話す。ただ、それだけではなく「化学繊維のセーターを着ている人も静電気に悩まされやすい」と教えてくれた。
まずは静電気の仕組みを理解した方がよさそうだ。「一般的には、2つの物体の摩擦などによって、一方の物体の表面から他方に電子が移動する。これを帯電といい、帯電状態で物体を離すと両物体の表面に静電気が生じる。その電圧が高いと放電が起こってバチッと音がしたり、火花が飛んだりする」(小田教授)
例えば、服を重ね着して体を動かすと、服の素材がこすれ合って表面が帯電する。そこで上着を脱ぐと、上着と内側の服が離されるので、それぞれに静電気が発生する。ところが、小田教授によれば「繊維の素材によって、摩擦した際の帯電の起こりやすさが異なり、静電気の大きさに影響する」という。
素材組み合わせ変えラジオ体操
そこで、服の素材の組み合わせを変えて、発生する静電気の大きさを測ることにした。ただ、化学繊維といっても種類は様々で、天然素材のウールの服を着ていても静電気でほこりが付くことがある気がする。繊維の種類の違いによる帯電の傾向を知っておいたほうがよさそうだ。
ライオン生活者行動研究所を訪ねて消費生活アドバイザーの小林衣子さんに聞くと、「服に使う繊維の中で、帯電しやすいのはポリエステルやナイロン、ウールなど。特にポリエステルとナイロン、ポリエステルとウールの組み合わせは要注意」との答え。
一方で、綿やシルク、麻などの天然素材は吸水性が高いこともあり、静電気がたまりにくい。また、ジャケットやコートの裏地に使うキュプラは化学繊維だが、吸水性が高く、ウールと組み合わせても静電気が起きにくいという。
静電気が起きやすい服の傾向が分かったので、実験へ。記者自身が綿(コーデュロイ)のシャツとズボンをはき、その上に重ね着した2種類の上着に発生する静電気を測定器で測ることにした。静電気を起こす方法はラジオ体操。服を変えても同じ動きを繰り返すにはうってつけだ。試しにポリエステル素材のフリースを着ながら体操をすると途中でバチバチときた。「これはいける」と、この時ばかりは静電気の発生がうれしかった。
結果は下の表の通り。静電気の大きな発生源となったのはポリエステル素材100%のフリースで、最も高い値を示した。一般的に静電気の値が2000ボルトを超えると、金属を指先で触った場合などに流れる電流で指先にピリッと刺激を感じることがあるという。
フリースの上にウールだと4500ボルト
記者愛用のフリースは、ウールや化繊のコート、ブルゾンのいずれと組み合わせても2000ボルトを超えていた。特に静電気が大きくなりやすいと教わったウールのコートとの組み合わせでは、4500ボルトという最大の電圧値だった。
防水仕様の化繊のコートも、表がナイロン、裏がポリエステルという静電気が起きやすい組み合わせになっているため、ほかの上着と比べて高い値が出た。一方、綿を含むコートやブルゾン、キュプラが裏地のジャケットは、静電気がほとんど起きなかった。
スカートとタイツの組み合わせも女性モデルを使って試した。それぞれの素材を入れ替えて、スカートのすそ付近で起こる静電気を測ると、やはり、ポリエステルのスカートとナイロンのタイツの組み合わせでは高い電圧値になった。
快適だったのは、裏地にキュプラを使ったウールのスカートと、シルクのタイツの組み合わせ。シルクが静電気を防ぐことがわかったが、シルクのタイツとポリエステルのスカートでは、少なめではあるが、静電気がたまる結果が出た。
ここ数年、車から降りて取っ手に触ったときのピリッとくる感触に悩んでいた。今回の実験で、最も静電気が起きやすい服を常に組み合わせていたと分かり、情けないような、納得したような妙な気分だった。
実験では、ジャケットやコートを着た状態でラジオ体操を繰り返したが、これが結構ハード。特に重い上着を支える背筋の負担が重く、その翌日は筋肉痛に悩まされた。
(稲川哲浩)
部屋なら加湿で抑える手も
静電気対策は、服の組み合わせ以外にもある。例えば、ライオンの小林さんは「室内で有効なのは、加湿器などで湿度を上げること」と、教えてくれた。
部屋の湿度を変えて、大きな静電気が発生しやすいウールのコートの中にフリースを着る組み合わせで、ラジオ体操をした後の静電気を測ってみた。
その結果、湿度が40%の場合はフリースの腹部に4000~5000ボルトの静電気が発生したが、湿度が55%の場合は400~1600ボルトにとどまり、大きな差が出ることが分かった。
屋外の対策はどうか。金属の取っ手に触れる時は「綿のハンカチで触れたり、手の甲で触れたりして、まず静電気を逃がしてやる」(東大の小田教授)。指先は感覚が鋭く痛みを感じやすいからだ。スカートのまとわりつき対策には静電気の除去剤を使う手もある。
[日経プラスワン2010年12月11日付]